ここ に いる(I am Here)

日之出の松の伝説は、語り継がれることで形を変えながら、時代を超えて受け継がれてきた。
広野町で出会った人たちとの対話の中で、私の中にも新たなレイヤーが生まれていく感覚があった。
この作品では、線の重なりによって、その「記憶の層」を表現している。
白蛇を思わせる線は、幾重にも交差し、時に浮かび上がり、時に奥へと沈んでいく。その動きは、語られる物語が聞く人によって異なる形を持ち、新たな解釈を生み出していく様子にも似ている。作品の中の線は、平面でありながら立体的にも感じられる。それは、広野町で出会った人々の言葉や感情が、私の中で折り重なり、形を変えていく過程そのものだった。また、作品に使用したシフォンの柔らかな質感は、伝説の中で竹女の乳母としての母性を象徴し、この土地が持つ穏やかで包み込むような空気を表している。
『竹女の霊が大きな大蛇となってふるさとの松に戻ってきた』と言い伝えられている話から描いた白蛇のように流れる線は、見えない記憶や感情をそっと包み込み、過去から未来へと受け継がれていくものの存在を静かに示している。
この作品が、ここで生まれた言葉や思いとともに、
誰かの記憶の中にそっと重なっていけば嬉しい。

作品名:ここ に いる(I am Here)
作家名:dolly
素材:PVC、アクリル絵具、ポリエステル
制作年:2025年
所蔵:福島県広野町(Public Collection of Hirono Town, Fukushima)
